水素社会は実現するのか?日本・欧州・中国の戦略を徹底比較!グリーン水素が導く脱炭素革命の全貌

エネルギー

「夢物語」から「現実」へ—2025年、いま加速する水素エネルギー革命。日本の先駆的政策、欧州の大胆投資、中国の製造力。三大経済圏の戦略から見える水素社会実現への道筋とその可能性。

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水素社会への壮大な挑戦,日本・欧州・中国が描く未来図

2050年カーボンニュートラル実現に向け、世界主要国が水素エネルギーに熱い視線を注いでいます。かつては「未来のエネルギー」と称されるだけだった水素が、今や国家戦略の中核を担い、巨額の投資が世界中で行われています。日本、欧州、中国という三大経済圏は、それぞれ独自の強みを活かした水素戦略を展開。その内容と進捗状況を徹底比較することで、水素社会実現への展望が見えてきます。

日本の水素基本戦略,世界初の国家戦略から見る2040年への道筋

日本は2017年12月、世界に先駆けて「水素基本戦略」を策定しました。当時から水素社会実現に向けた先駆者としての地位を確立していた日本は、2023年6月に同戦略を改定。新たな数値目標として「2040年までに年間1,200万トンの水素導入」を掲げました。これは現在の国内水素利用量と比較して大幅な増加を意味します。

「水素が未来を拓く-日本の水素技術の現在地」によれば、日本政府は水素基本戦略の中で、燃料電池や水電解装置など9つの技術を重要分野と位置付け、官民合わせて15兆円の投資を計画しています。この巨額投資は、日本の水素技術開発を加速させるとともに、国際競争力の強化も狙いとしています。

さらに大きな動きとして注目すべきは、2024年10月に施行された「水素社会推進法」です。この法律は「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律」という正式名称を持ち、低炭素水素等の供給・利用促進のために基本方針の策定、計画認定制度の創設、認定事業者への支援を柱としています。

日本の戦略の特徴は、燃料電池自動車(FCV)や家庭用燃料電池(エネファーム)など、水素利用の最終製品における技術優位性を持つ点にあります。しかし、水素製造コストの低減や大規模な水素サプライチェーン構築においては、まだ多くの課題が残されています。

欧州水素銀行の野心,2030年目標と1兆円規模の補助金制度

欧州連合(EU)は2030年に向けて非常に野心的な水素戦略を展開しています。EUの戦略は「2030年までに域内で40ギガワット以上の再生可能水素電解装置を導入」し、「年間1,000万トンの域内生産と1,000万トンの輸入」を実現するという明確な数値目標を掲げています。

特に注目すべきは、2023年に発表された「欧州水素銀行(European Hydrogen Bank)」構想です。この制度は、グリーン水素の生産を支援するために少なくとも30億ユーロ(約4,800億円)の資金規模を持つ支援制度で、グリーン水素生産者に対し、水素1キログラムあたりの固定されたプレミアム(奨励金)を提供します。

欧州水素銀行は競争入札を実施し、落札した水素生産者と差額決済契約(Contract for Difference)を締結。この仕組みにより、現状では化石燃料由来の従来型水素より高コストであるグリーン水素の価格差を埋め、市場競争力を高めることを狙っています。

欧州の戦略は、特に再生可能エネルギーの拡大と連動した形で展開されています。風力や太陽光発電の余剰電力を水素製造に活用することで、再エネ導入の加速とグリーン水素の拡大を同時に達成する戦略です。また、欧州グリーンディールの一環として、水素戦略は産業政策や雇用創出とも密接に結びついています。

中国の水素産業急拡大,製造大国が仕掛ける水素革命の実態

中国は急速に水素エネルギー分野での存在感を高めています。2022年3月に発表された「水素産業発展中長期計画」は、中国の水素エネルギー分野における最高レベルの計画文書として位置づけられています。

投資規模は非常に大きく、2021年から2022年の間に中国における水素開発への投資額は2,292億元(約3.55兆円)を超えたとされています。その成果は着実に表れており、2023年末時点で中国全土の水素生産能力は年間4,900万トン以上、生産量は3,500万トンを超え、前年比でいずれも約2.3%増加しています。

中国の水素戦略の特徴は、燃料電池車(FCV)の開発と普及に力を入れている点です。中央政府の推進により、燃料電池車における水素エネルギーの利用が伸びています。2021年に始まった中国の政策イニシアチブは、モデル都市クラスターを選定し、燃料電池車の普及促進と水素エネルギーのサプライチェーン構築を推進しています。

また、中国は水素製造技術においても急速に力をつけています。特に太陽光発電を用いたグリーン水素製造では、2022年11月にシノペックが新疆で世界最大の太陽光によるグリーン水素製造設備を建設するなど、積極的な投資を行っています。

中国の強みは、製造業における規模の経済と政府による強力な政策支援にあります。これにより、水素関連技術の急速なコスト低減と市場拡大が期待されています。

水素技術の最前線,色で分かる水素の未来と経済性

水素は「カーボンフリーの究極のエネルギー」と称されますが、その製造方法や輸送技術によって環境性能や経済性は大きく異なります。現在、世界中で水素技術の革新が進んでおり、その最前線を探ることで水素社会の実現可能性が見えてきます。製造から利用まで、水素のバリューチェーン全体を通して技術の現状と課題を検証していきましょう。

グリーン・ブルー・グレー,水素製造方法の徹底比較と環境性能

水素はその製造方法によって「色」で分類されることが一般的になっています。主要な分類は以下の通りです。

グレー水素。化石燃料(主に天然ガス)から製造され、製造過程でCO2が排出されます。現在最も一般的かつ低コストな水素製造方法で、価格は1キログラムあたり0.5~1.7ドルとされています。しかし、CO2排出を伴うため脱炭素社会における長期的な選択肢とはなりません。

ブルー水素。グレー水素と同様に化石燃料から製造されますが、製造時に発生するCO2を回収・貯留(CCS)する点が異なります。価格は1キログラムあたり1~2ドルと、グレー水素より若干高価ですが、環境負荷は大幅に低減されます。

グリーン水素。再生可能エネルギー(太陽光・風力など)を用いた水の電気分解により製造され、製造過程でCO2を排出しません。真の意味での「クリーン水素」ですが、現状では最も高価で、1キログラムあたり3~8ドルのコストがかかります。

注目すべき新技術として「ターコイズ水素」(メタン熱分解)があります。これは天然ガスを熱分解してCO2ではなく固体炭素と水素に分離する方法で、固体炭素はカーボンブラックなどの工業原料として利用可能です。環境負荷が低く、コスト的にも将来有望な技術として注目されています。

これらの水素製造方法は、それぞれ一長一短があります。現状ではコスト面でグレー水素とブルー水素が優位ですが、長期的な脱炭素化を考えるとグリーン水素への移行が避けられません。国際エネルギー機関(IEA)の予測によれば、再生可能エネルギーのコスト低減と電解技術の進歩により、2030年までにグリーン水素のコストは大幅に低下する見込みです。

水素輸送の課題 ,アンモニア、MCH、液化水素,最適解はどれか

水素社会実現の大きな課題の一つが、製造した水素をいかに効率的に貯蔵・輸送するかという点です。水素は体積あたりのエネルギー密度が低く、そのままでは効率的な輸送が困難です。そこで登場するのが「水素キャリア」と呼ばれる技術です。

液化水素。水素を-253℃の極低温に冷却して液化する方法です。体積を約1/800に減らせるメリットがありますが、液化のためのエネルギー消費が大きく、特殊な低温断熱タンクが必要です。川崎重工業などが日本・オーストラリア間で実証事業を行っています。

アンモニア(NH3)。水素を窒素と化合させてアンモニアに変換する方法です。常温での液化が比較的容易(-33℃)で、既存のインフラが使えるメリットがあります。また、アンモニアはエネルギーキャリアの中で最も水素の含有量と密度が高いことが特長です。さらに、アンモニアは燃料として直接利用することも可能です。

メチルシクロヘキサン(MCH)。トルエンに水素を付加してMCHに変換する有機ハイドライド法の一種です。常温・常圧で液体のため、既存の石油インフラがそのまま使えるメリットがあります。千代田化工建設がこの技術を「SPERA水素」として実用化を進めています。

有機ハイドライド(LOHC)。水素を低分子の有機分子に変換する手法全般を指します。MCHはLOHCの一種とも言えますが、他にも様々な有機溶剤による水素キャリア技術が研究されています。

これらの水素キャリアは輸送効率、コスト、安全性などの面で一長一短があります。「海外水素調達時の水素キャリア候補の比較」という研究によれば、最大水素エネルギー利用割合ではアンモニアが最も高く、体積水素密度もアンモニア、メタン、液化水素の順となっています。

国際能源経済研究所の分析では、「アンモニアをキャリアとして水素を運ぶ方法が、もっとも安価である」と示されています。しかし、輸送距離や用途によって最適な選択肢は変わってくるため、各国は複数の技術オプションを並行して開発しています。

水素利用技術の進化,燃料電池からタービン発電まで応用の広がり

水素は非常に多様な用途に活用できるエネルギーです。現在、特に注目されている利用技術を見ていきましょう。

燃料電池車(FCV)。水素と酸素の化学反応から電気を取り出し、モーターを駆動させる自動車です。排出物は水だけという環境性能の高さが特徴ですが、市場拡大は想定より遅れています。2024年のFCV生産販売台数は5,000台と前年比12.6%減少しています。高額な車両コストと水素ステーションの不足が普及の障壁となっていますが、トヨタはFCVの基幹ユニットであるFCスタック等の生産能力を年間3,000台から年間3万台以上へと拡充するなど、将来に向けた取り組みを継続しています。

家庭用燃料電池(エネファーム)。家庭で電気と熱を同時に供給できるコージェネレーションシステムです。日本は世界に先駆けて2009年に商用化を実現し、累計40万台以上が導入されるなど、一定の成功を収めています。

水素発電。ガスタービンやボイラーで水素を燃焼させて発電する技術です。既存の天然ガス火力発電所での水素混焼から、将来的には水素専焼へと発展することが期待されています。水素発電は大規模な水素需要を創出できるため、水素社会実現の鍵となる技術です。ただし、現状ではコスト高が課題で、水素ステーションにおける価格は1N㎥あたり100円程度ですが、2030年度には30円/N㎥、将来的にはさらなる低減が目標とされています。

産業利用。製鉄、化学、セメントなど、電化が難しい高温プロセスを持つ産業分野では、水素が化石燃料の代替として期待されています。特に製鉄における水素還元製鉄は、CO2排出削減の重要技術として研究開発が進められています。

これらの利用技術は、それぞれ発展段階や課題が異なります。特に注目すべきは、燃料電池のコスト低減と効率向上です。Mordor Intelligenceの市場分析によれば、水素燃料電池自動車の市場規模は2024年に16.3億ドルと推定され、2029年には376.5億ドルに達し、予測期間中に47.5%の年平均成長率で成長すると予測されています。

水素社会実現のロードマップ,いつ私たちの生活が変わるのか

水素社会は単なる夢物語ではなく、具体的なタイムラインと目標を持った国家プロジェクトとして各国で推進されています。しかし、理想と現実の間にはまだ多くの課題が存在します。水素社会を実現するためのロードマップと具体的な展望を、経済性、政策、生活への影響という面から検討していきましょう。

水素社会推進法が変える日本の未来,2024年から始まる新時代

2024年10月、日本の水素政策は大きな転換点を迎えました。「水素社会推進法」(正式名称:脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律)の施行です。この法律は、水素社会実現に向けた政策を大きく前進させるものです。

水素社会推進法の主な内容は、①国が低炭素水素等の供給及び利用に関する基本方針を策定すること、②低炭素水素等の供給と利用に関する計画認定制度を創設すること、③計画認定を受けた事業者に対する支援を行うこと、の3点です。

この法律が目指すのは、水素の大規模なサプライチェーン構築と需要創出を一体的に進めることです。水素社会実現に向けた社会実装モデルとして、既存インフラを最大限活用しながら供給拡大が可能で、需要と供給が隣接する地域等において、先んじて水素の社会実装を進め、水素の全国展開を図るアプローチが取られています。

実際の取り組みとして、国内では様々な実証事業が行われています。福島県浪江町では、大規模な太陽光発電を利用した水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」が稼働しています。また、北海道石狩市では「石狩市水素戦略構想」の実現に向けて、2023年の石狩湾新港洋上風力発電所(100MW規模)の運転開始に合わせ、日本初のフルスケールの洋上風力発電所を活用した水素製造の実証が進められています。

これらの実証事業を通じて得られた知見は、全国展開のモデルとなることが期待されています。水素社会推進法の施行は、日本における水素利用の拡大を後押しするとともに、産業競争力強化にも貢献すると見られています。

水素コスト低減への挑戦,2030年までに化石燃料と同等に

水素社会実現の最大の課題は、水素のコスト低減です。現状では、グリーン水素のコストが1キログラムあたり3~8ドルと、化石燃料由来のグレー水素(0.5~1.7ドル)やブルー水素(1~2ドル)に比べて高価です。この価格差を埋めることが、水素社会実現の鍵となります。

日本政府は2050年に化石燃料に対して十分な競争力を有する水準を目指し、水素コストの目標を設定しています。具体的には、2030年に30円/Nm³、2050年に20円/Nm³以下を目指すとしています。

コスト低減に向けたアプローチとしては、①水素製造技術の革新、②スケールアップによる効率化、③政策的支援、の3つが重要です。

水素製造技術においては、電解装置のコスト低減と効率向上が進められています。PwCの分析によれば、「水素生産コストは2030年までに現在のおよそ半分になり、それ以降は2050年まで緩やかに低下し続ける」と予測されています。

スケールアップについては、大規模な水素サプライチェーンの構築が不可欠です。富士経済グループの市場調査によれば、「2030年度以降は水素ガスパイプラインや液化水素による大量輸送など供給インフラの構築により、運搬コスト削減による水素調達コストの低減が期待される」としています。

政策的支援としては、欧州水素銀行のような差額決済契約や日本の水素社会推進法による支援など、各国で様々な制度が導入されています。これらの支援は、初期段階の高コストを補填し、市場の拡大を促進する役割を果たします。

コスト低減の可能性について、Strategy&(PWC)の分析では、「再生可能エネルギーが安価である地域で新たな技術開発が成功した場合には、水素が普及可能なコスト水準を2030年までに達成する可能性は充分にあり得る」としています。

水素が変える未来社会,環境・経済・安全保障の視点から

水素社会の実現は、単にエネルギー源の転換を意味するだけではありません。環境、経済、エネルギー安全保障など、多面的な影響をもたらす社会変革です。

環境面での最大のメリットは、CO2排出量の大幅削減です。国際エネルギー機関(IEA)の「Net-Zero Roadmap」によれば、2050年のカーボンニュートラル達成には、産業分野、モビリティ分野、発電分野を中心に水素需要が大幅に拡大することが必要とされています。水素はこれらの分野における脱炭素化の切り札となります。

経済面では、新たな産業と雇用の創出が期待されます。水素関連の世界市場は、2050年には約352兆円規模になると予測されており、この巨大市場をいかに獲得するかが各国の産業政策の焦点となっています。日本企業にとっては、燃料電池や水素製造装置などの分野で強みを発揮し、グローバル市場でのシェア獲得が課題です。

エネルギー安全保障の面では、水素は地政学的リスクの低減に貢献します。特に再生可能エネルギーから製造されるグリーン水素は、化石燃料のように特定地域に偏在せず、多様な供給源からの調達が可能です。日本やヨーロッパなど、エネルギー資源に乏しい国々にとって、水素はエネルギー自給率向上の手段となります。

水素社会がもたらす日常生活の変化としては、FCVの普及による移動手段の変化、家庭用燃料電池による電力・熱の自給、水素を活用したスマートシティの実現などが考えられます。さらに、水素インフラの整備が進むことで、自然災害時のエネルギー確保など、レジリエンス(強靭性)の向上も期待されます。

しかし、水素社会の実現には、技術開発やインフラ整備に加え、安全基準の策定や社会受容性の向上など、社会システム全体の変革が必要です。特に水素の安全性に関する正確な理解を促進する啓発活動が重要となります。

水素社会が実現する具体的なタイムラインについては、世界の動向を見ると2030年が一つの転換点となりそうです。この頃までに水素コストが大幅に低減され、大規模な水素インフラの整備が進むことで、2030年代以降に水素利用が本格的に拡大すると予測されています。

世界でも、カーボンニュートラルの実現に向けて水素の需要量が増えるとの国際機関の予測があり、2050年には2022年の約5倍になると推測されています。この変革の波に乗り遅れないためにも、日本を含めた世界各国は今、水素社会実現に向けた取り組みを加速させています。

まとめ:水素社会実現への道筋

いかがでしたでしょうか。水素社会の実現に向けて、日本、欧州、中国はそれぞれ独自の戦略で取り組んでいます。日本は世界初の水素基本戦略策定と水素社会推進法の施行、欧州は欧州水素銀行による大規模支援、中国は製造力を活かした水素産業の急拡大と、三者三様のアプローチが見られます。技術面では、グリーン水素の製造コスト低減と効率的な水素輸送手段の確立が課題です。水素社会は2030年頃を転換点として徐々に実現していくと予測され、環境・経済・安全保障の面で大きな変革をもたらすでしょう。夢物語と思われていた水素社会は、今やその扉が開かれつつあります。

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