大阪・関西万博のシンボルである「大屋根リング」の閉幕後の扱いを巡り、深刻な問題が浮上しています。建設費344億円をかけた世界最大の木造建築物でありながら、保存には年間約1.7億円の維持費が必要で、解体・再利用にも法的制約と巨額のコストが立ちはだかっているのです。
大阪万博リングの再利用問題は、もはや関係者間での「押し付け合い」の様相を呈しており、どの選択肢を選んでも困難が待ち受けています。この記事では、万博終了後のリング処理について、現実的な課題と限られた選択肢を詳しく解説していきます。
大阪万博リングの再利用問題と課題

「保存も地獄」建設費344億円の実態
大屋根リングは直径675メートル、外周約2025メートルという巨大な木造建築物です。使用された木材は約2万7000立方メートルに及び、建設費として344億円が投じられました。
ただし、当初の計画では万博終了後に完全解体される予定でした。会場は10月13日の会期終了後に更地にして返す契約になっているためです。しかし、巨額の建設費をかけた建造物をわずか半年で解体することへの批判が高まり、保存を求める声が強まっています。
問題は保存にも膨大な費用がかかることです。現在検討されている600メートル分の保存案では、防水・防腐対策などの改修に約9.6億円、10年間の維持管理に約7.4億円の計約17億円が必要と試算されています。読売新聞
維持費年間17億円の重い負担
万博協会の試算によると、リング保存には年間約1.7億円の維持費がかかります。木造建築物の宿命として、防腐・防水対策が継続的に必要だからです。
森林ジャーナリストの田中淳夫氏は「開幕期間限定の仮設で造られたものなので、保存するにはさまざまな補強が必要となる」と指摘しています。仮設建築物として設計されたリングを恒久的な建造物として維持するには、構造的な補強工事も避けられません。
一方で、この維持費負担を誰が担うかについて明確な決定はなされていません。大阪府・市は費用負担を懸念し、当初の600メートル保存案を350メートルに縮小する検討を進めています。産経新聞
法的制約が阻む木材活用の道
リング解体後の木材再利用についても、深刻な法的問題が立ちはだかっています。万博協会は「構造材として再利用するためには法的な問題がある」と明言しているのです。
建築基準法では、建物の構造を支える構造材として中古木材を使用する場合、部材の強度や耐久性を詳細に確認しなければなりません。大規模建築物で使用された集成材やCLT(直交集成板)の再利用には、厳格な検査と認証手続きが必要となります。
これらの手続きにかかる費用と時間を考慮すると、新材を使用した方が経済的になる可能性が高いのが現実です。そのため、344億円の建設費をかけた貴重な木材資源が、結果的に廃棄物となってしまう恐れがあります。
自治体間で始まった「押し付け合い」
リング保存問題は、関係自治体間での「押し付け合い」の様相を呈しています。大阪府の吉村知事は当初、海側600メートルの保存を提案していました。
しかし、維持費負担の重さから、府・市は保存区間を350メートルに縮小する方向で検討を開始しました。さらに、実際の管理運営については民間事業者への委託を前提としており、公的負担を可能な限り削減したい意図が透けて見えます。
このような状況下で、どの主体が最終的な責任を負うのかについて明確な合意は形成されていません。6月23日に正式決定される予定ですが、関係者間の利害調整は難航が予想されます。
万博リング再利用の現実的な選択肢

部分保存200メートル案の検討状況
現在、最も現実的とされているのが、北東部分の200メートルを保存する案です。大阪府・市は万博跡地計画にこの案を盛り込む方針を固めています。
この案では、万博協会が一度現地にリングを残置し、その後府・市が開発事業者を公募する段階的なアプローチを採用します。事業者から原形に近い形での保存案が提示されなかった場合に備え、350メートルの保存も選択肢として残されています。
ただし、建築基準法上の扱いについては依然として課題が残っています。恒久的な建造物として認定を受けるためには、追加の構造補強工事が必要になる可能性が高いためです。毎日新聞
解体・移設にかかる巨額コスト
リングを他の場所に移設して活用する案についても検討されていますが、こちらも現実的ではありません。巨大な木造建築物の解体・移設には、建設費に匹敵する費用がかかる可能性があるからです。
森林ジャーナリストの田中淳夫氏は「解体して再利用するにしても、移設するにしても、巨額のお金がかかることは間違いない」と指摘しています。特に、貫工法という伝統的な接合技術と現代工法を組み合わせた複雑な構造のため、解体作業自体が困難を極めるとされています。
また、移設先での再組み立てには、当初の設計図面や施工ノウハウが必要となり、技術的なハードルも高いのが実情です。
ギネス記録抹消の可能性
リングの部分的な保存や解体は、ギネス世界記録の抹消につながる可能性があります。現在、「世界最大の木造建築物」として認定されているリングですが、原形を留めない状態では記録の維持は困難とされています。
ギネス記録は万博のレガシーとして重要な意味を持ちますが、記録維持のために全体を保存することは費用面で現実的ではありません。このジレンマが、関係者の判断をより困難にしています。
万博の象徴的な建造物としての価値と、経済的な合理性のバランスをどう取るかが、今後の議論の焦点となるでしょう。
建築基準法が妨げる構造材転用
前述の通り、リング解体後の木材を構造材として再利用するには、建築基準法上の厳格な規制をクリアする必要があります。中古材の強度測定、耐久性評価、品質認証など、複数の手続きが必要となるのです。
これらの手続きには専門的な検査機関での測定が必要で、費用と時間が大幅にかかります。結果として、新材を購入した方が経済的になるケースが多く、実質的に木材の再利用を阻害する要因となっています。
一方で、構造材以外への転用、例えば家具や装飾材としての活用は技術的に可能です。ただし、2万7000立方メートルという膨大な量の木材を、そうした用途だけで消化することは現実的ではありません。
このように、大阪万博の大屋根リングは「保存も地獄、再利用も地獄」という状況に陥っており、関係者は6月23日の正式決定に向けて、困難な選択を迫られています。巨額の建設費をかけた建造物の末路として、今後の判断が注目されます。
大阪万博リング再利用問題の総括まとめ
大阪万博の大屋根リングは、建設費344億円をかけた世界最大の木造建築物でありながら、閉幕後の処理について深刻な問題を抱えています。保存には10年間で17億円の維持費が必要で、木材の再利用には建築基準法による厳格な規制が立ちはだかっています。
現在、関係者間では費用負担を巡る「押し付け合い」が始まっており、当初の600メートル保存案は350メートル、さらには200メートルへと縮小検討されている状況です。どの選択肢を選んでも巨額の費用がかかることから、結果的に貴重な木材資源が廃棄物となってしまう可能性が高いのが実情です。
6月23日の正式決定を控え、大阪万博リングの再利用問題は「保存も地獄、再利用も地獄」という状況に陥ったまま、明確な解決策が見つからない状態が続いています。
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